2014年8月26日 「女性の健康の包括的支援に関する法律(案)」に対する意見書 DPI女性障害者ネットワーク (代表・南雲君江) 東京都千代田区神田錦町3−11−8 武蔵野ビル5F TEL:03-5282-3730 FAX:03-5282-0017 Mail:dpiwomen@gmail.com 私たちDPI女性障害者ネットワークは、障害のある女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して、1986年障害のある女性たちの緩やかなネットワーク組織として発足しました。優生保護法が優生条項を削除し、母体保護法に改正された1996年以降、一時活動を停止していましたが、障害者権利条約の成立やDPI(障害者インターナショナル)世界大会を機に2007年再始動しました。現在障害のある女性をめぐる国内外の様々な課題への施策提言や啓発活動に取り組んでいます。 さて、生涯にわたる女性の包括的な健康支援は、保健・医療関係者のみならず、多くの人々が望むものであり、その全面的な実施は人口の半数を占める女性に大変有益なこととなるでしょう。 この法律が妊娠・出産の偏重とならないよう、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)の視点から妊娠・出産できない/しない女性への施策、および妊娠・出産期以外の健康支援施策等の充実を明記することが重要と考えます。そして名実ともに女性の生涯にわたる包括的な健康支援を体系的に保障する法律となることを望みます。 障害のある女性は、これまで社会から性も生殖もない、あるいは女性として価値が劣る存在ととらえられて来ました。妊娠、出産、子育てに関わる医療・保健・福祉機関は障害のある女性の利用がほとんど想定されず、加えて診療拒否や否定的な態度により、通常でも不安や負担が大きいこの時期の障害のある女性が、より困難な状況に置かれることも少なくありません。 妊娠・出産以外の場面でも性別を無視した対応、たとえば日常的な異性介助や男女同室での入院処遇等、障害のない女性が感じることのない無神経な対応や差別を、障害のある女性は体験しています。 さらに、その立場の弱さから性的被害を受けやすく、障害のある女性は性を否定される一方、女性として搾取される存在とも言えるのです。具体的な事例は私たちが発行した「複合差別実態調査報告書」【注1】や内閣府で行ったヒアリング資料【注2】の中に多く紹介されています。 さらに過去には優生保護法の下、「不良な子孫の出生を防止する」として障害者や病者に対して強制不妊手術が実施されました。この優生条項は削除のうえ母体保護法になりましたが、その直後1998年国連が日本政府に勧告した被害者への謝罪と補償は、現在までまったく行われていません。今年7月、国連自由権規約委員会は「日本政府は、現在および過去の最終見解において委員会が採択した勧告を実行に移すべきである」と改めて勧告しています。 近年、新型出生前診断の導入等により、障害のある子の出産を忌避する傾向が強まり、「障害者はかわいそう。生まれるべきではない」という、障害のある人への差別や偏見が助長されるのではと危惧しています。 このような現状を踏まえ、私たちは「女性の健康の包括的支援に関する法律(案)」の施策は、障害のある女性をも想定して立案し、とくに下記の項目について意識的に取り組まれることを要望いたします。 1. 保健医療サービスの提供体制及び情報の収集と提供、相談体制の整備について 種々の障害に対応した合理的配慮の観点から、その整備を進める。 2. 人材の確保及び養成、質の向上について 障害に関する知識や、障害のある女性の実情を理解する内容を研修に盛り込み、当事者講師を積極的に登用して、障害のある女性への適切な支援が行える人材を幅広く育成する。 3. 調査研究について 障害のある女性が健康を保持し増進するために欠くことのできない医療機関への受診について、現在どのような障壁があるのか、その実態を調査し、これを解消する保健・医療環境のあり方を研究し、成果の普及・活用に努める。 4. 障害のある児童生徒を含めた性教育の推進 5. 産まない選択をする障害女性への支援 障害に対応する使用しやすい避妊薬・器具の開発 私たちは障害があろうがなかろうが、女性は女性として尊重され女性施策の対象となり、子どもを産む産まないに関わらずその健康が保障され、多様で主体的な生き方が認められる社会となることを強く願い求めます。 以上 注1 DPI女性障害者ネットワーク『障害のある女性の生活の困難―人生の中で出会う複合的な生きにくさとは ―複合差別実態調査報告書』2012年 注2 第18回障がい者制度改革推進会議差別禁止部会(2012年5月11日) ヒアリング資料「障害者差別禁止法」に障害女性の条項明記を求めて −「障害のある女性の生きにくさに関する調査」から http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/b_18/pdf/s2.pdf 第10回障害者政策委員会(2014年1月20日) ヒアリング提出資料 資料1「基本方針に関する障害者団体からの意見一覧」二分冊のうち第一分冊に収録http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_10/pdf/s1-1.pdf