声に応える                            反差別国際運動(IMADR) 原 由利子 「とるに足らないと思わされてきた自分たちの経験や声。それを意識し、言葉に残し、数で表し、社会の問題として位置づける。アンケート調査に答えるということは、その運動に参加するということ。何もしなければ何もなかったことになる。」―アイヌ・部落・在日朝鮮人女性が2004年から5年にかけて行なってきたアンケート調査には、そんなこだわりがあった。そして、「この状況を何とかしたい。後に続く女性たちに同じ思いをさせたくない」という思いが、答えにくいアンケートへの参加ににじみ出て、その後の調査につながっている。 今回、複合差別実態調査の報告書を読んで、女性たちの思いやアンケートに表われた状況、政府の政策・意識の欠如など、共通している点が多くあると感じた。同時に、性的被害や性と生殖に関する権利、介助、暴力、経済的な問題等々、障害を持つ女性が直面する固有の課題の深刻さや問題ある制度・政策改善の緊急性も痛感した。政策の不作為は直接犯罪につながる。その点で都道府県の制度・政策を見える形にして比較するBチームの調査はとてもわかりやすく重要で、今後自治体の政策競争を刺激していくためにも有用だと感じた。そして何より、障害を持つ女性が、障害者制度改革推進会議をはじめ、国や自治体の様々な制度や政策を協議し・決定し・評価していく各種の委員等に登用され、この調査結果に象徴される声が反映されていくことが重要だと感じた。 マイノリティ女性の取り組みから                               部落解放同盟 中央女性運動部副部長 山崎 鈴子  障害女性の複合差別実態調査報告書を読んで、まず私たちとほぼ同時期に当事者が実態調査を実施したことに深い繋がりを覚える。当事者でなければできない「生の声」、とりわけ性的被害や介助の場面での言葉のすべてが重く響いた。 2003年に、国連・女性差別撤廃委員会は日本政府に対して、次回報告書(2006年)にマイノリティ女性の労働・雇用・健康・教育・暴力などの実態をデーターとして出すよう勧告した。私たちはこの勧告を追い風としながら、国や自治体に実態調査実施を要請するとともに、自分たちがどう勧告を活かしていくのかということを反差別国際運動(IMADR―JC)、部落解放同盟中央女性運動部、北海道ウタリ協会札幌支部、アプロ女性実態調査プロジェクトの4者で話し合い、アンケート調査を実施し、調査報告と23項目の提言をまとめた。さらに解放同盟では、6府県の女性部でアンケート調査を実施し、その結果をまとめ報告会を開催、課題解決に向けて活用していくことを確認してきた。  私は、女性政策の中に部落女性をはじめとしたマイノリティ女性の課題を入れなければ女性政策にならないと、名古屋市男女平等参画審議会の公募委員に応募、審議委員に委嘱された。審議会は「男女平等参画先進都市をめざして」との答申(2004.11)のなかで、答申項目3項では「見えない差別に目を向けるために」を名古屋市長あてに出した。私の知る限り全国で始めてマイノリティ女性に光をあてた答申である。この審議会で私は初めて障害女性との出会いがあり、その複合差別について学んだ。 2009年、国連・女性差別撤廃委員会から、日本政府はマイノリティ女性の実態把握についてさらに厳しい勧告を受けているが、その実現はなかなか困難である。国の第3次男女共同参画基本計画策定にあたっては、複合差別のなかにある女性の課題をいれるよう要請してきた。当事者を中心とした運動で基本計画第8分野に文言として入れることができた。 今年、複合差別を受けている女性のDV相談について中央段階での研修や当事者の相談員の育成について4月に内閣府に要請。複合差別の中にある女性の課題がやっと可視化されようとしているが、当事者が運動しない限り進まないのもまた現実である。