調査報告書を読んで NPO法人自立生活サポートセンター・もやい代表理事 稲葉 剛 2008年の年末から翌年の年始にかけて東京・日比谷公園に開設された「年越し派遣村」の取り組みは、当時、国内の貧困問題を可視化したと言われました。しかし、長年、女性の貧困や性差別の問題に取り組んできた方々からは「派遣村によって可視化されたのは、近年拡大した男性の非正規労働者の貧困であって、女性はずっと貧困であった」「男性の貧困が『女性なみ』になってきたことにより、ようやく貧困問題が社会問題として注目されるようになったのではないか」という指摘がなされました。 歴史的に見ても、正規労働者と非正規労働者の賃金や待遇の格差は、そもそも男女間の格差として設定されたものです。その背後には日本社会に根強い性別役割分業の意識がありますが、生活困窮者の相談・支援活動に取り組んできた私たち自身も、そうした意識を払拭できていないと言わざるをえません。例えば国内の貧困問題を語る際に「男性の貧困」を基準に語ってしまう傾向があること、生活困窮者の相談活動においても女性が相談に来やすい環境の整備ができていないこと等が指摘されました。 現代の日本社会では国内における貧困問題の存在自体が見えにくくさせられていますが、その不可視化に対抗するはずの活動や言説の中にも性差別をはじめとする様々な社会的差別が無意識のうちに入り込んでおり、それによって重層的な不可視化が生じているのだと思います。 今回、障害のある女性の「生きにくさ」に関する報告書を読みながら、何重にも及ぶ複合差別の実態に慄然とすると同時に、最も不可視化されてきた問題を可視化するために尽力された関係者の方々、なかでも長年出せなかった「叫び」や「怒り」を言葉にして表現した当事者の方々に心から敬意を表したいと思いました。 この調査報告書が可視化した実態を制度・政策の改善、社会意識の変化に結びつけていくため、微力ながら連携していきたいと考えています。