2012年から「障害のある女性の生活の困難-複合差別実態調査報告書」(DPI女性障害者ネットワーク、2012年)へのコメントを随時連載しています。これまでの掲載についてはDPI女性障害者ネットワークのウェブサイトをご覧ください。  http://dpiwomennet.choumusubi.com/  今号は『声に出せない あ・か・さ・た・な ――世界にたった一つのコミュニケーション』(生活書院、2012年)の著書がある、障害者とコミュニケーションについて研究されている天畠大輔さんにご執筆いただきました。 言葉の力─障害女性の複合差別調査報告について─    天畠 大輔  発話が困難な私が唯一できるのは「聞いて考える」ことです。  意思や思いを伝えるには、介助者を通じて独特なコミュニケーション「あかさたな話法」でしか「言葉」を紡ぎだす手段はありません。  今回の報告書には“負のスパイラル”があると感じました。「教育」を充分に受けられないこと。「就労」が出来ない事や低賃金であること。そして「経済」的にも「介助」の面でも家族に頼らざるを得ないこと。そして、その事を相談する相手がいないことなどが複雑に絡み合い、自力では抜け出すことができないスパイラルに陥ります。弱い立場のものが強い立場の者によって支配される状況が続くと、自分で考え行動することを諦めてしまいます。私もそう感じる出来事は何度もありました。相手の顔色を伺うような状況が長期間続くと、媚びるコミュニケーションになり、そして「言葉」を奪われるのです。  この報告書では、言葉を奪われた障がい女性たちが自分の経験について赤裸々に語っています。「義兄からセクハラを受けたが誰にも言えなかった」「男性職員が嫌だとか病院では言えないんですよね」「一番屈辱的なのは、そういう出来事があっても、親や姉に言えないこと」だという。こうした差別や抑圧の中にあっても、自分たちの立場の弱さや保護を求める言葉ばかりではなく、彼女らの「言葉」には、“障がい女性”というアイデンティティがあります。性的被害を受けたことについて、ある障がい女性は以下のように語っています。「どのような現実があったにせよ、私達の多くは、自ら立ち向かってきたのである。今後、明らかにし、解決の道を探るべきは、差別と抑圧の現実である」という彼女らの言葉には力強さすらも感じました。