調査報告書を読んで 弁護士 林 陽子  昨年秋に、DPI日本会議から、障害女性の複合差別の実態についての調査報告書を送っていただいた。読んでからすでに数か月経っているが、読後に感じた「ずしん」と胸に迫るものの記憶は鮮明である。  性的な被害に関する体験が非常に多いことが印象に残った。これは氷山の一角だと思う。そもそも今まで誰も障害を持った女性たちが直面する困難について聞き取りなどをしてこなかっただろうし、仮に実施されていたとしても、真実を語れる勇気を持った女性は少ない。  「女性は結婚して、子どもを産むのが幸せ」だという性別役割分担(ジェンダー・ステレオタイプ)が、女性たちを傷つけていることも改めて思い知った。障害を持った女性たちが結婚、出産、育児ができるような環境を整えることは大切なことである。しかしそのステレオタイプをなぞらなかった女性たちの人生も、同じく尊重されるべきだ。  深刻な人権侵害の内容を含む調査報告書であるが、決して誰かに対する「恨み・つらみ」を述べ立てているのではなく、全体のトーンが力強く、カラリとしていることも印象に残った。これは調査を実施し、報告書を編集した人たちの個性によるものだろう。  貴重な報告書を次にどうつなげていくか、きっとすでにDPI女性障害者ネットワークの中で議論が始まっていることと思う。  障害を持った女性が直面する困難について、記録をし、外に発信してほしい。そして障害者運動の中で女性の参画を進めていってほしい。  日本や世界の人権運動と広く連帯してほしい。日本は国連の障害者人権条約の批准をようやく済ませ、これから日本の国家報告書審査や日本人の委員の選出などが行われていく。女性たちもその中心に加わってほしい。  私が委員をしている女性差別撤廃委員会(CEDAW)に関して述べれば、今年7月の会期で日本の報告書に対する質問票の採択が行われ、2016年2月の会期で日本の審査が行われる。日本の障害を持った女性たちの置かれた状況について、NGOからの情報提供が待たれる。また障害者の権利委員会と女性差別撤廃委員会の合同の作業も今後、模索されるべきであり、NGOにはそれを先導する役割も期待されている。  そして日本は経済的に不況とはいえ「先進国」であり、世界有数のODAの供与国である。日本の援助が、困難な立場にある人々、特に途上国の障害を持った女性たちに届くような仕組みを作ることも、私たちに求められている。 お知らせ:2015(平成27)年2月17日外務省ウェブサイトより「2月16日(現地時間同日),ジュネーブ国連欧州本部において開催された第60回女子差別撤廃委員会(2月16日?3月6日まで)において,林陽子弁護士が,同委員会委員長に選出されました。林委員は,2015年2月より,2年間委員長を務めます」。おめでとうございます。 「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査報告書」(2011年、第四刷頒布中)へのお問合せは、DPI女性障害者ネットワーク dpiwomen@gmail.comまで。