調査報告書を読んで 東京大学先端科学技術研究センター特任研究員 大河内直之  私は20年ほど前より、視覚と聴覚の両方に障害を併せ持つ「盲ろう者」の支援ならびにそれらに関連した研究に取り組んできた。盲ろう者の支援を行っていて感じることは、障害や困難が重複することで、それぞれの単一障害とは全く違った問題に直面するということである。  今回、調査報告書を読ませていただき、障害女性の複合的差別の問題は、まさにこの重複障害のそれと構造が似ていると感じた。「女性としての困難」「障害者としての困難」は、それぞれ単一的に語られてきたが、それらが複合的に語られることは少なかったということであろう。報告書に寄せられた声や行政の取り組みの遅れ、社会の無理解等を目の当たりにして、その実態や問題の深刻さが鮮明に伝わってきた。と同時に、この問題は多くの障害支援の分野でもっと意識されなければならず、さらには重複した困難の支援に取り組む盲ろうの現場でもしっかり向き合うべき課題であることを改めて実感している次第である。  報告書の冒頭に「障害女性の複合差別は、裏返せば、障害男性の差別や苦悩を浮き上がらせます。」という記述がある。この言葉が、男性障害者である私の心に重く響いている。私は、これまで障害女性の複合差別の問題には少なくとも関心を寄せてきたつもりであった。しかし、今回具体的な証言や差別の実態を知る中で、いかに自分が「人事」としてしかこの問題を捉えてこなかったのか、ということに改めて気づかされている。そのことを改めて自覚すると共に、今後自分と直結する問題として、障害女性の複合差別の問題に興味関心を寄せ続けていきたいと考えている。 *「障害のある女性の生活の困難−複合差別実態調査報告書」現在、第四刷頒布中。お問い合わせは、DPI女性障害者ネットワーク dpiwomen@gmail.com まで。