リーフレットのテキスト 障害のある女性の複合差別は今 DPI女性障害者ネットワーク dpiwomen@gmail.com http://dpiwomennet.choumusubi.com/ ■DPI女性障害者ネットワークとは 「DPI女性障害者ネットワーク」は、国内の障害女性をつなぐ、ゆるやかな ネットワーク組織です。 障害女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して、1986年に発足しました。 優生保護法が優生条項を削除し、母体保護法となった1996年以降、一時活動 を休止していましたが、2007年のDPI世界会議韓国大会で、障害女性の世界 的連帯が求められたことをきっかけに、活動を再開しました。 現在は、障害女性に関する法律や制度、施策のあり方をめぐる国内外の様々 な課題に取り組み、情報発信をしています。 ■障害のある女性の生活の困難とは 複合差別実態調査 私たち、DPI女性障害者ネットワークは、2011年4月から11月にかけ て「障害のある女性の生きにくさに関する調査」を行い、法律による救済を 必要とする困難な経験が、いまも数多くあることを明らかにしようとしてき ました。 調査は、当事者からの、アンケートと聞き取りによる実態調査とともに、D V防止計画と男女共同参画基本計画について、47都道府県の公式サイトに 掲載された計画、年次報告などを調査しました。アンケートには全国から8 7人の協力が得られ、回答を問題別に分類し分析しました。 この結果は、2012年3月に「障害のある女性の生活の困難・複合差別実 態調査報告書」としてまとめ、発行しています。 ■性的被害 調査回答の中で一番多かったのが性的被害に関する記述で、回答者の35%が 経験していました。 職場で上司から、学校で教師や職員から、福祉施設や医療の場で職員から、 介助者から、家庭内で親族からの被害が起きています。 これらは、障害女性が居続ける必要があり、容易に立ち去ることができない 場です。そして、加害者の立場が強いということが共通しています。したが って、たとえ犯罪に該当するような場合であっても、被害者が被害を訴えに くいことは容易に理解できることです。 また、障害のために逃げることができない、反撃する力がない、知的障害な どの場合は訴えても証言が採用されない、声や顔で加害者を特定できないな ど、障害女性の属性に加害者がつけ込んでいることも充分考えられます。 ■介助 障害者の同性介助の要望は、介助を受ける当事者が、安心できる人からの介 助を選べることを求めています。女性からは同性介助の希望が多く、その理 由として次のことが考えられます。 介助は身体接触を含む場合が多く、身体接触を含む介助は、性的被害を受け るというリスクとも隣り合わせで、そうした被害は女性が男性から受ける場 合が多いという事実です。 女性にとって男性から受ける介助は、男性が女性から受ける場合よりも違和 感が大きく、リスクが高いです。 さらに、女性の身体は、鑑賞の対象、商品として価値付けられる意味をもた されています。 これらのことからも、身体接触をともなう男性からの介助が、女性にとって 脅威であり苦痛になることは調査からも明らかでした。 ■性と生殖と健康の権利 調査には、1996年まであった旧優生保護法(現・母体保護法)のもとで、優 生手術を強制された人からの回答も寄せられました。 施設等に入る際に月経の介助を受けずにすむようにと、子宮摘出を勧められ たという回答もありました。 これまでに、障害女性を対象とした子宮摘出が行われている可能性は指摘さ れてきましたが、これについて公的な調査は行われていません。 ■声 十歳代だった1963年頃、優生手術(不妊手術)を受けさせられ、生理時の激 痛やだるさなど不調が出た。二十歳の頃結婚したが離婚。再婚の夫も家を出 た。原因は私が子どもを産めないから。 (60歳代 精神障害) ■収入格差・貧困 この収入には、賃金、年金、手当が含まれています。 一般に、性別による収入の格差があり、障害の有無によっても、大きな収入 の格差が存在しています。 さらに、障害者のなかでも性別による収入の格差があり、障害女性は極端に 貧困な状況にあります。 グラフ: 単身世帯の年間収入 二都市での調査 2005-2006年 単位:1万円 男性全体 409.40 女性全体 270.40 障害男性 181.39 障害女性 92.00 ■声 以前は母や周りから「早く結婚して子を産め」と言われたが、障害をもって から言われなくなった。そして、妊娠した時、障害児を産むのではないか? 子どもを育てられるのか?といった理由で、医者と母親から堕胎を勧められ た。   (40歳代 視覚障害 難病) 母の恋人から性的虐待を受けた。母の恋人が、私のお風呂介護をして胸等を 触られ、非常に苦しい思いをした。母にそのことを言うが、信じてもらえず 最悪だった。   (30歳代 肢体障害) ある企業の面接で、 「うちは本当なら障害者は要らないんだよ。まだ男性 で見た目に分からん障害者やったらエエねんけどな〜。」と言われた。  (30歳代 肢体障害) ■障害女性の複合差別の現状【日本】 NGOから女性差別撤廃委員会への課題リスト 2015年7月 DPI女性障害者ネットワークは、日本女性差別撤廃条約NGOネットワークと共に、2015年7月に国連・女性差別撤廃委員会に対して、「日本政府に質問してもらいたい事項」をまとめ提出しました。これは、そのうち、障害女性についての項目です。2016年2月には、国連・女性差別撤廃委員会で日本政府報告の審査が行われ、勧告が出されます。 <質問> 1 DV被害に関する公的な相談機関の障害女性の年間相談件数、電話以外の 通信方法の提供の実態は?公的シェルターへの年間受入れ件数、及び、設備 や通訳者・介助者派遣制度などの人的支援で障害のある女性に対応できてい るシェルターの割合は? 2 障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用状況調査」の調査票には性別の 解答欄が無く、内閣府統計委員会等での指摘があるにもかかわらず改善がな されていない。改善の具体的時期と方法は? 3 「旧優生保護法による強制不妊手術の調査および被害者への補償を」と いう国連自由権規約委員会からの勧告をどう実施するのか? <背景> 政府の計画には障害のある女性の複合的な困難が存在するという認識は書か れるようになったが(報告書パラ128)、具体的な計画や政策はない。障害 者権利条約の批准国としてもこの課題を重視して措置をとらなければならな い。 1 DV防止法の下で「他の者との平等」を実現しなければならない。 ・DV防止法には「被害者の国籍、障害の有無等を問わずその人権を尊重す る」と書かれている。しかし、行政の相談窓口は、電話による相談しか受け ておらず、聴覚障害や言語障害がある人は利用し難い。また、公的なシェル ターは、車いす利用者や介助を必要とする障害がある人の利用を想定してい ない。 2 障害分野におけるジェンダー統計の不在が、政策の無策とも関連してい る。 ・障害者の雇用均等を推進する目的でつくられた障害者雇用促進法において、 男女賃金格差が障害者の間で固定化することのないように、積極的な施策を 講ずる必要がある。 3 旧優生保護法に基づく被害について、政府は人権侵害を認め、調査と補 償をすべきである。 ・国連自由権規約委員会は、1998年に「委員会は、障害をもつ女性の強制不 妊の廃止を認識する一方、法律が強制不妊の対象となった人たちの補償を受 ける権利を規定していないことを遺憾に思い、必要な法的措置がとられるこ とを勧告する」とした。しかし、この勧告は実行されていないままである。 ・過去に優生学的理由による強制不妊手術を合法としていた国でも、謝罪・ 補償を行なった例がある。日本政府も、1996 年に廃止された「らい予防 法」に関しては、らいの人々を強制的に隔離し生殖の権利を侵害したことに ついて調査を行い、謝罪と補償を行なった。同様の対応が可能である。 ・障害のある女性は、現在も、医療機関や家族から妊娠や出産を阻まれたり、 診療や入院を断られることがある。また、病院や施設で、異性による介助を 受けることを強制され、不快な経験をすることも多い。また、障害のある人 が十分な性教育を受けることができていない。過去には、知的障害のある児 童を対象にした性教育が、地方議会議員による不当な介入で中止された例が ある。