部会意見に対するDPI女性障害者ネットワークの見解 DPI女性障害者ネットワーク(代表・南雲君江) 連絡先: 千代田区神田錦町3−11−8 5F DPI 日本会議気付 電話03-5282-3730 FAX03-5282-0017 dpiwomen@gmail.com DPI女性障害者ネットワークは、障害女性に対する複合差別の課題に取り組む、障害女性当事者を中心としたグループです。私たちは、ヒアリングでの発言を含め、この間の障害者差別禁止法の制定に向けた国の障害者制度改革の議論に積極的に関わってきました。その立場から、先ごろまとまった「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」に対して、以下の通り見解をまとめました。 ○国の基本的責務のうち、特に留意を要する領域として、「障害女性」の課題があることが明記されたことを評価します。また、責務の具体的内容として、「実態調査を実施することや、各施策の全てに障害女性の複合的な困難を取り除くための適切な措置を取り入れること」が明記されたことを評価します。  現在、制定に向けて議論が進んでいる障害者差別禁止法は、日本が、国連の障害者権利条約を批准するために必要な法律です。その意味でも、権利条約6条に書かれている障害のある女性が受けている複合差別への認識とそれをなくしていくための措置を国がとることを新たな法律に書き入れることは不可欠なことです。このことが、新たに作られる法律のなかにもきちんと書き入れられることを望みます。  ○部会意見が障害女性について、各則に独立した一節を設けなかったのは、大変に残念なことだと感じています。  障害女性の規定については、部会の委員からの提案としても出され、ヒアリングでも私たちが最も強く主張したことです。なぜなら、障害者差別禁止法に障害女性についての独立した条文を設けることで、障害男性の影に隠れて見落されがちな、障害女性の不利とニーズを可視化させ、不均等な待遇を改善できると私たちは考えてきたからです。障害女性に特化した条文を設けることはまた、現に障害女性が受けている複合差別の課題を、社会に対して明らかにするメッセージとして、大きな意義をもつはずです。私たちは、これから制定される差別禁止法に、障害女性に関する独立した条文をつくることを、あきらめずに働きかけていきたいと考えています。 ○差別禁止法で取り扱う差別の定義として、複合的な要因が重なって生じる差別の課題があることが明示されなかったことは、残念なことだと感じています。  差別の定義についてもさまざま議論があった中で、部会でも、障害と他の特徴(人種、信条、性別、社会的身分、門地など)との結合した差別の課題を明示的に位置付けるべきだという提起がありました。しかし、最終的な意見のなかでは、国の基本的責務の中に、「複合的な困難」という言葉が示されてはいるものの、明確な位置づけがなされませんでした。このことは、現実に、複合的な要因による差別を受けた人が、救済につながりにくくなる状況を作り出してしまうものだと考えます。 ○意見書の第8節「家族形成」の例示は不十分な点や不明な点があると考えます。  第8節は障害女性にも関わりが強い部分として関心を持っています。また、この節に、「障害者が子どもの数や出産の間隔について自由に責任を持ち、決定するために、個々の障害に応じた避妊や妊娠等に関する情報提供と意思確認が行われること」という障害女性のリプロダクティブヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)についての記述があったことは歓迎しています。  ただ、例示が限定的で、例えば、母子手帳へのアクセシビリティが確保されることや、産褥期の適切なケアが受けられること等も書き込まれるべきだったと考えます。 ○婚姻制度などの既存の枠組みが問題の背景になっているという認識がみられないことは、課題として残ったと考えます。  私たちの行った複合差別調査への回答で、例えば「障害があったのに結婚ができたのだから夫に感謝し尽くすべきだといわれた」という経験や、「戸籍が汚れるから入籍はだめ」と言われたという経験、「家族に障害者はほしくない」と言われたという経験が語られました。また、夫からの深刻なDV被害の経験も語られました。  こうした経験は、婚姻制度自体が、特に女性にとって、また障害者にとっても、抑圧的な側面をもっていることを示しています。「結婚」することは勝ち取るべき権利なのでしょうか、このことも議論のある点です。第8節にも、「婚活」について詳細な記述がありますが、「婚活」が公的な事業として行われることも、異論のあるところだと思います。  女性は現在でも、個人単位でみたときに、経済的に困難な状況に置かれています。様々な制度が世帯単位となっていて、震災の弔慰金さえも、世帯主中心に支払われています。また、婚姻制度による関係の縛りが、DVといった暴力の被害を深刻化させているという状況もあります。女性の役割とされてきた家事や育児や介護を担うことが難しい障害のある女性と少女の困難も、性別役割分業を前提とした現在の婚姻制度がもたらす弊害の一つです。私たちは、「結婚」や「家族」を選ばない・選べない人たちが、そうではない人に比べて不利を被るということがない社会をつくっていく必要があると考えています。  私たちは、障害者差別禁止法が、実質的な意味で、障害女性の困難を可視化し、解決していく法律になることを望んでいます。そのために、意見書を活かしながら、さらに、私たちがこれまでに複合差別調査などを通して出してきた障害女性の課題を、新たな法律に明確に位置付けるよう、今後も働きかけていきたいと考えています。 2012年10月21日