2014年9月2日 障害者政策委員会 委員長  石川准 様                      DPI女性障害者ネットワーク (代表・南雲君江) (公印略) 東京都千代田区神田錦町3−11−8 武蔵野ビル5F TEL: 03-5282-3730  FAX: 03-5282-0017                     Mail: dpiwomen@gmail.com 差別解消法の基本方針等についての要望書 私たちDPI女性障害者ネットワークは障害のある女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して、1986年障害のある女性たちの緩やかなネットワーク組織として発足しました。現在は、障害のある女性を中心に、情報交換等を行うネットワークの形成を進めているほか、障害者権利条約にも示された障害女性の複合的な困難とその課題を明らかにするために、国内で調査を実施し、それらをもとに提言を行う等の活動を行っています。 障害に加えて女性であることによる複合的な困難は、収入の格差にも表れています。単身世帯について男性全体の年収を100とすると、女性全体は66、障害男性は44、そして障害女性は22(92万円)という低さです(註1)。また、障害のある女性が多くの性的被害をこうむっていることが、複合差別実態調査によって明らかになりましたが、被害防止・救援の政策が障害のある人に対応できていないために、窓口に相談することさえ困難な状況に置かれています(註2)。「障害者の性別に応じて、社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮」(障害者差別解消法・後述)をするには、障害女性に対する性差別と障害者差別との複合的差別を解消していくことが必要です。 2010年1月から始まった障害者制度改革の議論において、障害女性の課題は、当初から検討すべき基本的課題とされていました。同年6月に出された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」には「女性であることによって複合的差別を受けるおそれのある障害のある女性の基本的人権に配慮する」という方向が示されました。そして「障害者制度改革の推進のための第二次意見」には「これまでの障害者施策には、障害者の中でもっとも差別や不利益を受けるリスクの高い女性が置かれている差別的実態を問題にする視点が欠落していたと言わざるを得ない」という反省的視点が盛り込まれ、「複合的な困難を経験している障害のある女性が置かれている状況に十分に配慮しつつ、その権利を擁護するために必要な施策を講ずること」という意見が提示されています。制度改革の議論を通じて、障害女性の課題は共有すべき重要な課題として認識されるようになったと言えます。 障害者差別解消法では、行政機関等における障害を理由とする差別の禁止に関する条文(第7条)と、事業者における障害を理由とする差別の禁止に関する条文(第8条)に、「障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮」をするとした規定が入りました。参議院の質疑(2013年6月18日内閣委員会)では、「7条および8条(同上)にある「性別、年齢」は、障害者基本法をふまえ、障害者権利条約の女性や子どもの条項に沿った意味であり、今後、障害者権利条約を踏まえて基本方針や要項、指針を策定していく」という確認答弁がありました。この質疑と答弁を受けて、付帯決議1条に「条約の趣旨に沿うよう、障害女性や障害児に対する複合的な差別の現状を認識し、障害女性や障害児の人権の擁護を図ること」も記述されました。 その後に策定された第三次障害者基本計画には、「女性である障害者は障害に加えて女性であることにより、更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること(中略)に留意する」という文言が加えられた他、「障害者施策の適切な企画、実施、評価及び見直し(PDCA)の観点から、障害者の性別、年齢、障害種別等の観点に留意し、情報・データの充実を図る」という記述がなされています。 上記したこの間の流れや国会での答弁を踏まえ、私たちは、新たに作られる障害者差別解消法の基本方針に以下の項目を盛り込むことを求めます。 1 障害のある女性の複合差別に取り組む方針を明記すること 障害者権利条約、障害者基本法、障害者差別解消法の趣旨に基づき、国会審議における確認答弁を踏まえて、障害者差別解消法が、「障害のある女性の複合差別」に取り組む方針を明記すること。 2 障害者差別解消法で「障害のある女性の複合差別」に取り組むために、性別の観点に留意した調査研究を進め情報・データの充実を図ることを明記すること  現状では、障害者に関わる国、地方自治体の基本的なデータ等に性別の視点が反映されておらず、差別の現状や課題が把握できない現状がある。こうした状況を改善するため、各種の統計データには性別集計を入れることを標準とし、一層の調査研究によって課題把握と評価が行えるようにすること。 3 障害女性を含む当事者参画を進めることを明記すること  障害者差別解消法17条に規定された障害者差別解消支援地域協議会を設置する際には、障害者権利条約の第34条で規定された「障害のある人の権利に関する委員会」でも示されているように、ジェンダーの釣合いをとることを明記すること。また、地域協議会のみならず、政策委員会等の委員の選出をする際にも障害のある女性の課題に取り組んできた障害女性当事者を選出すること。 以上 註1)勝又幸子他「障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究」『厚生労働省科学研究費補助金平成17-19年度調査報告書』2008年、81頁表18を元に算出 註2)DPI女性障害者ネットワーク『障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査報告書』2012年? 資料 2006年 障害者権利条約(川島聡・長瀬修仮訳 2008年5月30日付) 第6条「障害のある女性」 1 締約国は、障害のある女性及び少女が複合的な差別を受けていることを認識し、また、これに関しては、障害のある女性及び少女がすべての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを確保するための措置をとる。 2 締約国は、この条約に定める人権及び基本的自由の行使及び享有を女性に保障することを目的として、女性の完全な発展、地位の向上及びエンパワメントを確保するためのすべての適切な措置をとる。 第34条「障害のある人の権利に関する委員会」 4 委員会の委員は、締約国により選出されるものとする。その選出に当たっては、委員が地理的に衡平に配分されること、異なる文明形態及び主要な法体系が代表されること、ジェンダーの釣合いがとれた代表にすること並びに障害のある専門家が参加することを考慮に入れる。 2010年6月「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」 「女性であることによって複合的差別を受けるおそれのある障害のある女性の基本的人権に配慮する」 2010年12月「障害者制度改革の推進のための第二次意見」 「これまでの障害者施策には、障害者の中でもっとも差別や不利益を受けるリスクの高い女性が置かれている差別的実態を問題にする視点が欠落していたと言わざるを得ない」「複合的な困難を経験している障害のある女性が置かれている状況に十分に配慮しつつ、その権利を擁護するために必要な施策を講ずること」 2011年「障害者基本法」改正成立 2条「社会的障壁」4条「差別の禁止」などを定義。障害者基本法の歴史上初めて、「性別」という言葉が10条「施策の基本方針」、14条「医療、介護等」と26条「防災及び防犯」に入ったが、障害のある女性の複合差別の課題としては明記されなかった。 第10条(施策の基本方針)の1  障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策は、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、かつ、有機的連携の下に総合的に、策定され、及び実施されなければならない。 第14条(医療、介護等)の3 国及び地方公共団体は、障害者が、その性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じ、医療、介護、保健、生活支援その他自立のための適切な支援を受けられるよう必要な施策を講じなければならない。 第26条(防災及び防犯)  国及び地方公共団体は、障害者が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするため、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、防災及び防犯に関し必要な施策を講じなければならない。 2013年「障害者差別解消法」成立 第7条 (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)の2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 第8条 (事業者における障害を理由とする差別の禁止)の2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。 「障害者差別解消法」審議の国会答弁(2013年6月18日参議院 内閣委員会) 「7条および8条(行政機関、および、事業者における障害を理由とする差別の禁止)にある「性別、年齢」は、障害者基本法をふまえ、障害者権利条約の女性や子どもの条項に沿った意味であり、今後、障害者権利条約を踏まえて基本方針や要項、指針を策定していく。」 「障害者差別解消法」附帯決議 参議院、第1条の部分引用(2013年6月18日参議院 内閣委員会) 1 また、同条約(権利条約)の趣旨に沿うよう、障害女性や障害児に対する複合的な差別の現状を認識し、障害女性や障害児の人権の擁護を図ること。 2013年 第3次障害者基本計画(9月決定) 「基本的な考え方」の「各分野に共通する横断的視点」の(3)障害特性等に配慮した支援 障害者施策は,性別,年齢,障害の状態,生活の実態等に応じた障害者の個別的な支援の必要性を踏まえて,策定及び実施する。特に,女性である障害者は障害に加えて女性であることにより,更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること,障害児には,成人の障害者とは異なる支援の必要性があること,に留意する。 「推進体制」の5「調査研究及び情報提供」 障害者施策を適切に講ずるため,障害者の実態調査等を通じて,障害者の状況や障害者施策等に関する情報・データの収集・分析を行うとともに,調査結果について,本基本計画の推進状況の評価及び評価を踏まえた取組の見直しへの活用に努める。また,障害者施策の適切な企画,実施,評価及び見直し(PDCA)の観点から,障害者の性別,年齢,障害種別等の観点に留意し,情報・データの充実を図るとともに,適切な情報・データの収集・評価の在り方等を検討する。 「障害者権利条約」批准の承認の審議における国会答弁 部分引用  (2013年12月3日 参議院院外交防衛委員会) 岸田文雄外務大臣「まず、女性に対する差別の撤廃につきましては女子差別撤廃条約に規定をされております。しかしながら、この女子差別撤廃条約には障害のある女性に対する独立した条文は存在いたしません。政府としましては、障害のある女性が複合的な差別を受けており、そして社会的弱者の中でも特に弱い立場に置かれやすいこと、これを認識をしております。ですから、障害者権利条約、御指摘の六条ですが、本条はこのような認識に立ち、そうした方々の権利の保護、促進を図るべきであるとの考え方から創設されたものと承知をしております。外務省としましてはそういった認識に立っております」 岩渕豊内閣府大臣官房審議官「本年九月に閣議決定いたしました第三次の障害者基本計画におきましては、各分野に共通する横断的視点といたしまして、特に女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより更に複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する旨を記載したところでございます。引き続き、女性である障害者を含めまして全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、障害者施策の総合的かつ計画的な推進に努めてまいりたいと存じます」 蒲原基道厚労省障害保健福祉部長「ただいま内閣府の方から話がございましたのと同じ認識でございます。(以下略)」 岩渕豊内閣府大臣官房審議官「本年九月に閣議決定した障害者基本計画におきまして、障害者の実態調査等を通じて障害者の状況や障害者施策等の情報、データの収集、分析を行うこと、そして、その際には障害者の性別、年齢、障害種別等の観点に留意する旨を盛り込んだところでございます。(中略)当該データを把握する関係省庁と連携いたしまして、必要な情報、データの収集、分析、充実を図ってまいりたいと存じます」