「障害者基本計画(案)」について提出したパブリックコメント全文 団体 DPI女性障害者ネットワーク (担当者 臼井久実子・瀬山紀子) 2013年9月5日付で、このワード文書9頁のとおりの区分けで、意見9通を送信しました。 <意見> 「U 基本的な考え方」、3.(3)障害特性等に配慮した支援 の、二つ目の段落に次のように加筆を求めます。【 】内が加筆部分です。 特に,女性である障害者は障害に加えて女性であることにより,更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること【から,女性としての人権の擁護と,性の違いによる不均等待遇を是正する支援の必要性があることに留意する。とともに、女性である障害者が社会の各分野に、参画の機会が確保されるよう留意する。】障害児には,成人の障害者とは異なる支援の必要性があること,に留意する。 <理由> 障害女性の複合的な困難は、男性と異なる身体的機能の面からと、社会的・文化的な面の両方から考えなくてはならない。たとえば、性、月経、避妊、妊娠、出産などにかかわる健康とそれらについて自ら決定することは、性と生殖の健康・権利として尊重されているが、障害女性のそれは奪われた歴史があり、今も尊重されているとはいえない。また、女性に共通する問題である性的被害は、障害女性にとっても深刻である。また、異性による身体介助は、女性にとって苦痛が大きく、性的被害の危険をもたらす。社会的・文化的な面からみると、この社会には旧来の性別役割の固定がいまだ根深く、教育、就労、収入、政治参加など多くの分野で男女の格差が顕著である。障害女性には、障害の有る無しによる格差とともにこの男女の格差による困難がある。障害女性が主体的に社会参加できるよう、これらの格差を解消する施策が必要である。 <補足> 性別役割の固定と男女の格差に関する資料: ・平成24年内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」に賛成が51.6%、反対が45.1% ・世界経済フォーラム「The Global Gender Gap Report」2012年版で、日本の男女格差は135カ国中101位 ・障害女性の年間収入は非障害男性の4分の1以下「国立社会保障・人口問題研究所」の2005年、2006年「障害者生活実態調査」 分野別施策「生活支援」について二点の意見です。 <意見> 生活支援(1)相談支援体制の構築 1-(1)-3の文末に、以下を加筆するよう求めます。 協議会には障害のある女性の委員を積極的に登用する。 <理由> 障害者の中でも女性の声は意見が反映されにくく、役職についている割合も低い。積極的な是正措置が必要である。 <意見> (4)サービスの質の向上等に下記の一文を加える。 障害のある女性の着替え、入浴、排泄、月経の手当てなどの身体介護について、同性介助を保障できるよう、人材の量と質の充実を図るものとする。 <理由> 上記の介助が異性によって行われることは、障害のある女性に大きな苦痛を与え、尊厳を踏みにじるものである。同時に性的被害の危険性を伴う。従来この問題は無視されたり、人手不足を理由に黙認されてきた。改善のための施策を強く求めたい。 <意見> 分野別施策2「保健・医療」の【基本的考え方】に加筆を求めます。 【基本的考え方】の最後に、「女性である障害者の性と生殖の健康・権利の推進に取り組む。」と加筆する。 <理由> 1996年まで存在した優生保護法は、障害者に不妊手術を強制する規定が実施されていた。月経の介助の手を省くため障害女性の子宮を摘出する違法行為も行われていた。このように障害者とくに女性の性と生殖の健康・権利は、不当に奪われた歴史があり今も尊重されていない。 分野別施策2「保健・医療」の(1)、(3)、(6)に加筆と変更を求めます。 <意見> (1)保健・医療の充実等に、2-(1)- 7、2-(1)- 8として以下を加筆する。 ○ 障害女性が身近な地域で妊娠、出産について必要な医療と支援を受けられるよう、障害のある女性の周産期医療の向上を図るとともに、医療体制、福祉サービス、保健サービスの充実と連携体制の推進を図る。2-(1)- 7 ○入院中の障害のある女性の着替え、トイレ、入浴など身体介助は、同性が行うことを保障する。2-(1)- 8 <理由> 2-(1)- 7加筆の理由:【基本的考え方】への加筆と同じ。 2-(1)- 8加筆の理由:DPI女性障害者ネットワークの調査で、国立病院入院中にトイレや入浴など身体介助を、異性から受けたとの訴えがあった。これらの介助は生活の一部であり治療とは異なる。異性が行うのは障害女性にとって大きな苦痛であり、性的被害を受ける危険もある。 <意見> (3)研究開発の推進に2-(3)- 5として以下を加筆する。 ○ 障害者が使うことのできる避妊方法を開発し、普及する。2-(3)- 5 <理由> 多様な障害に対応する避妊の手段が、障害者の性と生殖の健康・権利の増進に必要。 (6)障害の原因となる疾病等の予防・治療 に加筆と変更を求める。 ・次の文章を2-(6)-5として加筆する。 ○ 障害,難病について,国民,保健・医療従事者等に対して,正しい知識の普及を図るとともに,偏見・差別や過剰な不安の除去を図る。2-(6)-5 <理由> 「障害者基本計画」7月原案にあった「障害の原因となる」の文言が8月原案では削除されたことは、障害や難病を「あってはならない予防すべきもの」とする見方の転換として歓迎する。しかし7月原案2-(1)-5の全文削除はこの趣旨に合わない。「正しい知識の普及」と「偏見・差別や過剰な不安の除去を図る」は残すべきだ。 <意見> (6)の見出しを「(6)疾病等に対する医療連携体制と偏見の除去」に変更する。 <理由> 本文から「障害の原因となる」を削除したことに合わせ、また、本文の内容を反映するため。 分野別施策4「雇用・就業、経済的自立の促進」に加筆を求めます。 <意見> 4-(1)「障害者雇用の促進」のなかに、次の一文を入れる。 「性別」を記述した障害者基本法の改正および、基本法と権利条約を踏まえた障害者差別解消法の成立を受けて、障害がある女性の雇用就業の促進のための取組を推進する。 <理由> 障害者基本計画(案)2章3「各分野に共通する横断的視点」の(3)「障害特性等に配慮した支援」で、「障害者施策は、性別、年齢、障害の状態、生活の実態等に応じた障害者の個別的な支援の必要性を踏まえて、策定及び実施する。特に、女性である障害者は障害に加えて女性であることにより、更に複合的に困難な状況に置かれている場合があること、障害児には、成人の障害者とは異なる支援の必要性があること、に留意する」とある。この横断的視点をもって、重点となる分野や課題に障害女性について書き込み、取組を推進することが必要である。雇用就業の分野は、就業率、雇用身分、賃金等の格差が存在しており、特に言及が必要である。<補足>障害者基本法改正で「性別」が記載され、障害者差別解消法も「性別」を記述、「条約の趣旨に沿うよう、障害女性や障害児に対する複合的な差別の現状を認識し、障害女性や障害児の人権の擁護を図る」との附帯決議も採択された。 <意見> 4-(1)-5に下記のように追記する。 障害者基本計画(案)4-(1)-5「都道府県労働局において、使用者による障害者虐待の防止など労働者である障害者の適切な権利保護のため、個別の相談等への丁寧な対応を行うとともに、関係法令の遵守に向けた指導等を行う」 この文末に、次の一文を追加する。 「相談や指導などにおいて、障害女性の複合的な被害状況と困難をふまえる。」 <理由> 裁判にも訴えられてきた事件からも、当会が呼びかけて実施した障害女性へのアンケートと聞き取り調査からも、障害女性であることを理由とした求職拒否や、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、種々の暴力の被害が報告されている。使用者を指導する人や相談に応対する人も、障害女性の立場状況をふまえて取り組まなければ、適切な指導や支援ができないため、基本的な課題を特記する必要がある。 分野別施策7「安全・安心」に文章を加えることを求めます。 <意見> 分野別施策7「安全・安心」の「基本的考え方」の末尾に、次の一文を加える。 「特に、障害女性が安心・安全な地域生活を送るにあたっては、その複合的差別の実態に着目した施策を講じなければならない。」 <理由> 障害者基本法、第26条(防災及び防犯)「国及び地方公共団体は、障害者が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするため、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、防災及び防犯に関し必要な施策を講じなければならない」と、「性別」にも言及し、必要な施策を講じる必要があるとしている。このことを踏まえ、安全及び安心に関する障害者基本計画をとくに「性別」に着目して具体化すべき。 また、平常時から、障害女性は主に介助や医療の現場等で性暴力を受けるリスクを背負っていることが、DPI女性障害者ネットワークの調査報告書で明らかになっている。今回の震災は、平常時よりの差別が顕在化する結果をもたらした。震災という非常時にあっては、まず障害者が避難所から排除された。生きるのに欠かせない行為であるトイレに入れず、危険の残る家や施設などに戻らざるを得なかったという事実もある。非常時には女性が性暴力の被害に遭いやすかったというニュースも多数存在することから、この度の震災で障害女性へ向けられたリスク/被害は計り知れない。復興にあたっては、障害女性の遭遇する複合的差別のリスクの軽減を考慮し、平常時よりの同性介助の確保・DVシェルターのバリアフリー化(物理的・人的資源の整備)・医療/福祉や行政との連携、各種サービスの周知を徹底する必要があるからである。 分野別施策8「差別の解消及び権利擁護の推進」に文章を加えることを求めます。 <意見> 8-(2)-4に次の文章を追加する。 「障害者に対する差別及びその他の権利侵害を防止し,その被害からの救済を図るため,相談・紛争解決等を実施する体制の充実等に取り組むとともに,その利用の促進を図る。」に続けて次の一文を加える。 「また、DV防止法に基づき、DV被害者の支援のために全国に設けられている配偶者暴力相談支援センター等の相談機関についても同様に障害者が利用しやすくするための措置を講じること」 <理由> DPI女性障害者ネットワークが行った調査でも、DV被害を受けている障害女性がいても、相談機関にたどり着いていない、またシェルターなどの公的な支援制度の仕組みを利用できていない実態が明らかになっている。 4章「推進体制」の計画の具体化への提言です。 <意見> 5「調査研究及び情報提供」で述べている内容を推進するための計画が必要である。 まずは、「障害者基本計画達成成果目標」に掲げている項目から率先垂範して、計画内容にかかわる性別等の集計を実施すべきである。 (例) p38の「公共職業安定所における就職件数」は、就職件数だけでなく、「有効求職者数」と併せて、性別・年齢階層などで集計する。 雇用率、被雇用障害者数に関しても、「障害者雇用状況報告書」(障害者雇用促進法に基づき国・地方公共団体、独立行政法人、民間企業が毎年報告)に性別等の欄を設けて集計分析する。 「身体障害児・者等実態調査」「障害者雇用実態調査」「知的障害児(者)基礎調査」などは、調査票に性別欄はあるが、性別集計がないか単純集計だけであり、性別、年齢等のクロス集計をとる。 <理由> 基本計画(案)にもある通り、障害者施策の適切な企画、実施、評価及び見直し(PDCA)の観点から、あらゆる分野で、障害者の性別、年齢、障害種別等に着眼して分析できる基礎データが求められている。詳細統計で実態を可視化し課題を分析し政策立案に役立てるために、具体的な計画と着手が必要である。ところが雇用就業の分野は特に性別の調査と集計が欠如しており、男女格差の大きい雇用分野で障害のある女性がどのように処遇されているか実態の把握に不可欠な情報が未整備である。政府の計画における数値目標等に係る男女別統計の整備状況について、さまざまな分野で遅れが指摘されているところだが、政府の調査でも、障害者の実雇用率が男女別に収集されていないことが示されている(資料1)。 ・資料1 「政府の計画における数値目標等に係る男女別統計の整備状況について」内閣府男女共同参画局資料 2013年7月19日付 http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kansi_senmon/20/pdf/shiryo_s.pdf ・資料2 NWEC男女共同参画統計ニュースレターNo.10 (2012年10月25日)7 障害者ジェンダー統計(その1):日本の障害者ジェンダー統計の整備状況 http://www.nwec.jp/jp/data/NWEC-GSNL10_20121025.pdf 基本計画の項目立てと「年金等」の扱いについて提言します。 <意見> 基本計画においても「年金等」を独立した項目として立てるべきである。 <理由> 基本法では「年金等」は独立した条文となっている。これに基づき、政策委員会も、独立の項目を立てて意見(2012年12月)を述べている。 ところが、基本計画(案)においては、「雇用・就業、経済的自立の支援」の一部に含めている。基本計画(案)のように、もっぱら雇用・就業との関わりで「年金等」を取り扱うことは、障害者基本法にそぐわない。 <補足1> 障害者基本法第十五条 (年金等) 国及び地方公共団体は、障害者の自立及び生活の安定に資するため、年金、手当等の制度に関し必要な施策を講じなければならない。 <補足2>政策委員会意見(2012年12月)7. P24〜25 4章 分野別施策の基本的方向−2年金等 障害者政策委員会での意見 (3)データ等についての意見 ○ 男女別集計によると女性は障害基礎年金だけを受ける人が多く、男性に比べて年金受給水準が低い。男女の就労形態の違いが年金に現れている。 新基本計画に盛り込むべき事項 ◎ 新基本計画の監視に当たり、以下のデータを把握すること。 ・ 障害者(無年金障害者を含む)とその家族の生計実態についてのデータ ・ 上記の男女別、障害別、年齢階層別、都道府県別 等のデータ